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大阪地方裁判所 昭和63年(ワ)8685号 判決

原告 日比順吉

右訴訟代理人弁護士 和田一夫

被告 金子光男

同 法城康男

同 門前伸太郎

同 矢野マス子

同 前田勝子

同 山崎岩雄

被告ら訴訟代理人弁護士 高藤敏秋

主文

一  原告と被告ら間の別紙賃貸借一覧表「賃貸借物件」欄記載の各建物についての賃貸借契約における月額賃料は、昭和六三年六月一日以降それぞれ同表「認容額」欄各記載の額であることを確認する。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その一を被告らの、その余を原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  原告

1  原告と被告ら間の別紙賃貸借一覧表「賃貸借物件」欄記載の各建物についての賃貸借契約における月額賃料は、昭和六三年六月一日以降それぞれ同表「請求額」欄各記載の額であること確認する。

2  訴訟費用は、被告らの負担とする。

二  被告ら

1  原告の請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は、原告の負担とする。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告は、被告らに対し、それぞれその所有に係る別紙賃貸借一覧表「賃貸借物件」欄記載の各建物(以下、これらを合わせて「本件各建物」という。)を賃貸しており、最近における月額賃料の推移は、別紙賃料推移表記載のとおりである。

2  右の各現行賃料は、その後の地価や物価の上昇及び公租公課の増額等によりいずれも不相当となった。そこで、原告は、いずれも昭和六三年五月末日までに被告らに倒達した書面により、本件各建物の月額賃料を昭和六三年六月一日以降それぞれ別紙賃貸借一覧表「請求額」欄各記載の額に増額する旨の意思表示をした。

3  被告らは、右賃料を争う。

4  よって、原告は、被告らとの間で昭和六三年六月一日以降における右増額賃料の確認を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1のうち、原告がそれぞれその主張の建物を被告らに賃貸していることは認め、その余の事実は否認する。

2  請求原因2のうち、原告が被告らに対してそのような賃料増額の意思表示をしたことは認め、その余は争う。

3  請求原因3の事実は認める。

三  被告らの主張

1  本件各建物は、いずれも戦前に築造され、現在では老朽化が進み、修繕を必要とする部分が各所にある。それにもかかわらず、原告は、本件各建物を修繕しなかったので、被告らは、自らの出捐で屋根、壁、塀等を修繕してきた。このことは、本件各建物の賃料額を算出するについて、考慮されるべきである。

2  別紙物件目録一及び二記載の各建物(「建物一」及び「建物二」といい、これらを合わせて以下「A群の建物」という。)、同目録三ないし六記載の各建物(「建物三」ないし「建物六」といい、これらを合わせて以下「B群の建物」という。)は、それぞれ同一群内の単位面積当たりの賃料額を同一水準に評価されるべきである。また、本件各建物は、前記のとおり、いずれも老朽化が著しいから、A群の建物とB群の建物との間の単位面積当たりの賃料に格差が生ずるとしても、右格差は、二倍以内に止めるべきである。

四  被告らの主張に対する原告の認否及び反論

1  被告らの主張1のうち、本件各建物がいずれも戦前に築造された建物であることは認め、その余の事実は否認する。

2  被告らの主張2は争う。

3  A群の建物は、明治四二年に築造され、B群の建物も築後数十年が経過しているから、ある程度修繕を要する部分が生じてもやむを得ない。また、原告は、被告らの主張する箇所については、そのほとんどを修繕している。

第三証拠〈省略〉

理由

一  請求原因1のうち、原告がそれぞれの所有を係る本件各建物を別紙賃貸借一覧表記載のとおり被告らに賃貸していることは当事者間に争いがなく、いずれも〈証拠〉によると、本件各建物の最近の月額賃料が別紙賃料推移表記載のとおりであることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

二  請求原因2のうち、原告が被告らに対してそのような賃料増額の意思表示をしたことは、当事者間に争いがない。そして、右一の事実、〈証拠〉を総合すると、本件各建物の従前賃料は、同年六月一日の時点において不相当に低額となっていたことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

三  そこで、本件各建物の昭和六三年六月一日の時点における相当な賃料について判断する。

1  賃料の算定方法には、スライド法、賃貸事例比較法、差額配分法等があるが、適正賃料の算定に当たっては、右の各種の方式を併用し、それらを比較考量したうえ、当該賃料の個別的事情を加味して総合的に判断すべきものである。

2  そこで検討するに、鑑定の結果によると、鑑定人村橋綾雄は、右の各手法によって本件各建物の右時点における各試算賃料を算出したうえで、本件ではスライド法による試算が最も規範性が高いとしつつ、賃貸事例比較法による試算も斟酌して本件各建物の適正資料を鑑定した(以下「村橋鑑定」という。)ことが認められる。これによると、右時点における本件各建物の適正賃料は、それぞれ別紙賃貸借一覧表「認容額」欄各記載のとおりである。

3  村橋鑑定が適正賃料算定のために用いた手法は、前記のとおりいずれも賃料算定方式として相当であるところ、各手法に用いられた基礎資料や数値は客観的に妥当と認められ、同鑑定が各手法による試算賃料を総合的に比較検討して適正賃料を判定した経過も適切である。

4  なお、被告らは、原告が本件各建物の修繕に怠っていたので、被告らが自らの出捐で修繕をしてきたという事実を賃料額決定に際して考慮すべきである旨主張し、〈証拠〉には、本件各建物について修繕が必要な部分のあることや被告らが本件各建物を修繕してきた旨の記載があるほか、本件各建物がいずれも戦前に築造されたことは、当事者間に争いがない。しかしながら、〈証拠〉により認められる本件各建物の現状並びに右の各記載に照らすと、仮に被告らが自らの出捐で本件各建物にその主張に係る修繕をした事実が存在するとしても、そのことが適正賃料の相当性の判断に影響を及ぼすべき特殊な事情に当たらないことは明らかである。したがって、被告らの右主張は採用できない。

また、被告らは、A群の建物間及びB群の建物間では、単位面積当たりの賃料は同一水準に、A群の建物とB群の建物との右賃料の格差も二倍以内にすべきである旨主張するところ、本件各建物間の格差及び最高の建物一と最低の建物六との賃料の格差は、前記認定のとおりである。しかしながら、〈証拠〉により認められるA群の建物とB群の建物との立地条件が建物の状況の違い並びに前記認定の賃料額の推移及びその額に照らすと、村橋鑑定が前記のとおり賃料額に差異を設けたこと及びその額は、いずれも本件各建物間で容認できない不均衡とは認められない。したがって、被告らの右主張は、採用できない。

そして、村橋鑑定による賃料算出の過程には、他に不適切ないし不合理な点は認められない。

5  したがって、当裁判所は、村橋鑑定に従い、本件各建物の昭和六三年六月一日以降の賃料は、それぞれ別紙賃貸借一覧表「認容額」欄各記載の額が相当であると判断する。

四  請求原因3の事実は、当事者間に争いがない。

五  よって、原告の本訴請求は、別紙賃貸借一覧表「賃貸借物件」欄各記載の建物の昭和六三年六月一日以降の月額賃料がそれぞれ同表「認容額」欄各記載の額であることの確認を求める限度で理由があるからこれを認容し、その余の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条本文、九三条一項本文にそれぞれ従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 田中敦)

別紙〈省略〉

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